Bad dream in my hands
あの夢にうなされて、寝汗をかいて飛び起きた。ぐにゃぐにゃとまるで生き物みたいに乱れたシーツは、見ているだけでうざかった。死んでしまえ。イナはバカみたいに隣で、穏やかに寝てる。起きているときに感じさせる、あの危ない雰囲気をどこで落としてきたのか。俺は思わず微笑んだ。気持ち悪ぃな、自分。なんで微笑んだんだろう。久し振りにこんな表情をしたからか、しばらく頬が痙攣した。 立ち上がり、窓をあけて夜風を浴びた。真っ裸だったが、街灯がここら辺りはないから外からは確認できないだろう。最近は、夜中に目が覚めてしまうせいか夜目がきくようになった。闇に混じるアスファルトも、かすかにそよぐ田んぼの苗も見えた。汗がすっと引いていくのが気持ちよかった。 目を閉じると、でも、すぐにまたあの夢がぶりかえしてくる。頬がびくりと一回、大きく痙攣した。
真っ赤な、血、血、血。 俺は笑ってた。あの人は泣いていた。バカみたいに騒ぎ立てるやつら。 夕陽も真っ赤、血も真っ赤。どうしてこんなに真っ赤なんだろう、と俺はおかしくておかしくて、たまらなかった。
あまりのおかしさに、俺の腕には無数の粟粒がたっていた。いつかホヅミが、キレイな体だといった。その言葉の裏にある意味は、よくわからなかったけれど。 あれからも、ホヅミはよくイナがいないときにここを訪れていたけれど、セックスはしない。前までは、よくしていたキスも、しない。別にしたいわけでもないからいいけど。タバコを吸いながら、彼は、
「イナに殺されると思うから、俺。まだ命は惜しいからな、お前は抱かないよ」
と、皮肉るように笑った。
「バイト?」
ふっと耳元で声がして、タバコの煙が直に鼻に入った。不意の出来事で、俺は思い切り咳込んだ。涙目で、振り向きざまにイナを睨むと、にやりと笑う。そしてその舌で、俺の目じりにたまった涙をぬぐう。
「こんな時間にバイトなんか行くわけねえだろ」 「行くなよ」
まるで普段とは違う口調で、俺の鳥肌はいっそう毛羽立った。 何、こいつ。 イナは俯いたまま、頭を俺の肩に預ける。重い。
死ね。死んでしまえ。お前なんか、俺なんか。死んだら、いいのに。
しばらくすると、イナはくっくっくっ、と声を押し殺すように笑った。そのたびにヤニ臭い息が漂う。
「なあ、千尋、お前さ、最近生きてる目、してんな」
一瞬誰のことかわからず、じっと考えていたら、自分の名前だということに気づいた。いつのまにか、どこかに忘れてきた名前。もうずっとその名前で呼ばれたことはなかった。
「お前さ、人を愛したことってあるか」
イナは、舌を器用に動かして俺の首筋を嘗め回す。耳たぶを噛んだりも、する。
「ない」
即答したのに、声が震えた。イナの笑い声が盛大に響く。ふわり、と持ち上げられて、それは世に言うお姫様ダッコ、の状態で、俺はベッドに放り投げられた。薄暗闇の中でも、イナの目は、はしばみ色に光っている。 その目はまるでヘビのようなねちっこさだった。だけど、俺は、その瞳をどこかで見たことがある。思い出さないようにしていた、そこに、ある。
初めて、こいつを、怖いと思った。
「俺も、ない。だけどな、ダイヤ。俺とお前をつなぐのは、お前のケツと俺のちんこだけで十分だと思わないか。だから、お前が死ぬときは俺とヤってるときに、俺がお前を殺してやるからさ。そっちのが、いいだろ」 「それは前も聞いた」 「なら、もう一回聞けよ。な、ダイヤ。死体とやるなんて、まっぴらだろ?人殺しなんて、まっぴらだろ?」
真っ赤。 真っ赤。 お前も俺も、まっかっか。
いやに饒舌なこいつは、呪文のように何度も何度も唱えて、俺を犯した。
まぶしい陽光に突き刺されて、まるで非難されているみたいで、俺は目を覚ました。イナはもう、バイトにいったようで部屋には俺しかいない。時計は、早々と昼過ぎを告げていて静かにベッドから抜け出した。
ピンポン、と古ぼけたドアベルが鳴り、下着だけを身に着けた格好でドアをあけた。そこに立っていたのは、ピンと糊の利いたワイシャツと、スーツを着こなした三十がらみの男。俺の口は、自然と動いた。
「マツイ・・・」 「・・・・・・ダイヤ・・・か?なんでお前、ここに・・・」
真っ赤 真っ赤 お前も 俺も まっかっか。
to be continued
09.1.13 改訂 |