ビリーブ・ミィ


信じるってさぁ、結局さぁ、信じてない奴に限って言うんだよねぇ?
そう言って、柚子(ゆず)はビールをグラス一杯飲んだだけなのに顔を赤くして、ぐにゃぐにゃと体を横に揺すった。だから止めておけって言ったのに、彼女はいつもグラス一杯で二日酔いだ。僕の小言なんか全く聞いてません、って感じでテーブルをばしばし叩いた。

「そもそも、信じるって言うことはよ、信じてますから止めてくださいよって言う、意味でしょ」
「柚子、お前飲み過ぎだよ」
「一杯しか飲んでねえよ」
「お酒弱いんだから」
「わかってんだよばあか」

わかってるなら飲むな、と視線で強く訴えてみるものの、彼女の視線はそこかしこに泳ぐから伝わるわけがない。

信じてる。

柚子はこの言葉に弱い。
男からも女からも、この言葉を言われてしまうと、自分も相手のことを信じてしまうんだと頬を蒸気させて言う。僕にとって、言葉は言葉にすぎないから、彼女は無防備すぎるとも思うけれど。だけど、その無防備さはときにうらやましくもある。ただ、こんな風になるまでその言葉を信じている彼女もどうかと思うけど。

「信じるっていう行為と、その言葉は全然一緒じゃないっつーことっすよ」

アルコールが全身に回ったのか、ぐにゃぐにゃするのは体じゃなく自分の中の視界になったのか、柚子はテーブルに突っ伏して、グラス越しに僕を見つめている。

「どういう意味?」
「だからさ、信じるっていうのは、ま、相手を信じるっていうことだけど『信じてる』って言うのは、別に信じてないけど、そういっておけば期待を裏切らないっつーかさ。あたしみたいな繊細なヤツってえのは結構乗せられるからさ、だからま、そういうわけだよ」

最後の方は声が震えて、風邪を引いているオヤジみたいな声になっていた。
彼女は泣いている。僕もグラス越しに柚子の涙を眺めた。

「そういう屁理屈並べないと、自分がふられたっていう理由に納得できないんだろ」
「そゆこと」

マスカラが落ちるのもはばからずに泣く彼女は、泣き上戸なのだ。


結局酒の所為と、涙の所為で彼女は歩いて帰れなくなり、僕がおぶることになった。駅までだから、と背中の柚子に言うけれど聞いていない。ずっとしゃくりあげている。
もう暦の上では春だけれど、夜の風はまだ冬だ。突き刺さるみたいに寒い。柚子とくっついている部分だけが、ほんわかと暖かかった。

「なあ、お前さあ」

しゃくりが落ち着いたころ、たずねた。

「なんでそんなに人のこと信じるんだよ。学習能力がないわけじゃないのに」

ぐりぐりと、肩で顔を拭かれた。おい、やめろ、と言うほど僕は野暮じゃない。幾分すっきりした声が返ってきた。

「信じることは、信じたいってことだからだよ」
「結局、お前、自分をふった男と同じじゃん」
「そう。信じるなんてそんなもんだっていう話だ」

女の子って、前向き。打たれづよい。素敵な生き物だ。
へへへ、と間抜けな笑い声がもれたらとがったヒールで太ももをけられた。

「うらやましいよ、お前みたいな能天気なバカ」
「人を信じることからはじめたらいいんじゃないの」

お前のこと、信じてみようか。絶対言わないけど。

その後、なんだかんだと一時間ほど歩いて柚子を彼女の家の玄関先に転がして僕が自分の家についたのは朝方だった。肩にはしっかりと、彼女の涙と鼻水のあとが残っていた。

END

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こういう友達がほしいです。
 

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