愛しその血を こんなに寒いのに貴方は上着も着ないのですか。 そう尋ねると困った顔をしましたね。そういう顔をされると心臓が痛みます。憎いからか、愛しいからか、よくわかりません。 ただ貴方を見ていると触れたくなるし、触れたら殺したくなるし、殺そうとしたら愛しくなるし、愛しくなったら殺せません。 貴方を見るたび、こんな回りくどく考えてはいるんです。まだ結論がでないだけで。 早く、と言って促すと貴方は渋々中に入られた。 「空気が冷たいとキラキラ光るなあ」 貴方は天井にぶら下がるシャンデリアを見上げましたね。いつも光ってますよ、と言ってもおかまいなし。ふ、と頬が緩みます。 床に座って縮こまり、寒い、ともらすぐらいならなぜ、暖炉に火を入れないのです。尋ねても意味がないのはわかっていますが。 部屋から離れようとすると、貴方は後ろから抱き着いてきた。ああ、殺したい、なんて。 「な、んの真似ですか?」 「暖をとってる」 「殺す、かもしれないですよ」 「ふふ、それもいいかも」 じわじわと背中から伝わる貴方の熱は、皮膚から侵入して筋肉をみたし、内臓に到達する。痛いのは心臓どころじゃないですよ。全部が全部、痛い。氷の結晶で貫かれてるみたいだ。 「一つ言ってもいいですか」 「何」 「殺したいぐらい愛しています」 案の定貴方は黙る。わかっています。貴方は決して答えない。答えをだしては一緒にいられないからだ。悲しきかな、自分の愛しさや憎しみに任せて抱くことは、到底できない。貴方は生れついたときから氷でなければならない。重々承知です。そんなくだらない掟。 くだらない、と言い切ってしまえるのは、貴方を愛しているからか、殺したいからか、勿論、結論はありませんが。 あはは、と貴方は高らかに笑った。その声がどんな意味をもつのかさえ、わかりません。楽しくて笑っているのではないのでしょう。少し腕に力がはいった。涙を堪えているんですか。尋ねることは怖くてできませんけれども。静かに背中だけを貸しましょう。 「どうしますか」 「何が?」 くぐもって聞こえる貴方の声がこんなにも愛しく思えるなど、なんて茶番だろうか。ははは、こっちだって自分の情けなさに笑えます。 「このまま貴方のこと、放さないで連れ出したら」 「いっそのことそうしてくれてもいいよ」 できませんよ、そんなこと。笑って言おうと思ったのに頬が引き攣って動かなかった。声もため息に変わる。なんの代わりなのか、涙が一筋流れた。 「泣いてる?」 「泣いてなんかいませんよ」 「泣かないで」 「泣いてません」 貴方はより強く背中にくっついてくるものだから、はらはらと涙がとまりません。愛してるんです。殺したいぐらい。いっそ誰かに殺される運命なら殺させてください。お願いします。貴方を殺すのは、愛すのは自分だけで十分です。 手のひらがじわじわと湿ってきた。愛しさゆえに?憎さゆえに? 結論なんて、どうでもいいんですよね。ようはYesかNoか。そんなシンプルなのに。 「寒いね」 貴方はまだ背中にくっついたまま、もごもごと話している。もう、笑うことも泣くことも、自分にはできません。ただ、貴方の体温を、血流を、感じていましょう。 END *** うーん。なんかこう、劇的な何かがほしいね。 |