彼と彼女の恋愛事情



「またノンケを好きになったの?」

雑誌を見ている塚ちゃんにそう言うと、彼はびくりとして顔をあげた。そんな驚かなくたって深夜のファミレスに健全なやつなんていないよ、と笑うと、それでも僕らはトクベツだから、と言う。少し淋しげだった。塚ちゃんがそんな顔をするからイライラするのだ、こっちとしては。

「いつ聞かれるかハラハラしてたら、はまちは今聞くんだもんなァ」 

なぜかしらどこかしら感慨深げなのがまた気に食わない。だいたい塚ちゃんの方が年下なのに、態度は私よりも落ち着いているのだ。 一緒に歩いているところを友人に見られたときには十中八九、兄妹に間違えられる。私としてはその間違いもうれしいのだが、彼に悪いからいつもちゃんと否定する。

トモダチだよ、と。

不思議なことに、その言葉を言うたびに淋しくなるけども、原因は塚ちゃんだし被害者は自分だからイライラしない。 そして塚ちゃんはそれを知らない。

「はまちだってノンケを好きになるだろ?」
「雰囲気でわかるし、好きになる子はそういう気があるからわかる。わかんないの、塚ちゃんぐらいだよ。いつもいつも生粋のノンケ好きになってばっかり」
「はまちには、わかんないだろうなァ」 

アルバイトのウェイターがクリームソーダとアメリカンコーヒーを持ってきた。私の目の前に緑色のまがまがしい液体が置かれる。見ているだけでも気持ち悪い。素直なもので、すぐに顔にでてしまったのでウェイターが少し引いていた。しかし彼は臆することなく、また私の前にホットケーキストロベリーがけをおいた。おえ。

「はまち」 

塚ちゃんに窘められたので、ウェイターに向かってにこりと微笑んだ。彼はキョトンとしている。

「あ、はまちって私の名前です。注文じゃなくて」

しかし答えはなく、ウェイターは軽く会釈を残してさがった。
すかさず塚ちゃんの前におかれたコーヒーと私の前に置かれた原色のメルヘンなものとを交換した。塚ちゃんは恥ずかしそうに、フォークでクリームをつついた。 

塚ちゃんがとても好きだ。私は、どうにも女の子しか好きになれないし、塚ちゃんは男の子しか好きになれない。だけど塚ちゃんは、男の子だけど、好きだ。 彼とならセックスだってできる気がする。その時は私が男役で、彼が女役で、十分だと思う。塚ちゃんには絶対に言わないけど、そんなこと。



「さっむーい」
「はまちが言うと、寒くなさそう」 

本当に寒いよ、と言うけど塚ちゃんはなんとなく笑うだけだった。

「はまち、っていう名前やめようよ」

よしはまちづる。
だから、はまち。小学校のときからのあだ名だけど、23にもなって呼ばれるとは思わなかった。というか、私は塚ちゃんだけに「はまち」と呼んでほしい。本当は。

「でももう、はまちって話しちゃったし」
「ノンケに?」
「そういう風に言うなよ」

彼は、いつも好きになった人を私にあわせる。本当は今日の予定だったのだが、向こうの彼女がなんだかんだでこれなかったらしい。多いに結構。おかげで塚ちゃんと一緒にいることができたのだから。
それにいろいろと問題が起こる。私が塚ちゃんの好きな人に会うと、その人は私のことを好きになる。最終的に、その人は彼女がいてもいなくても、私に言い寄ってくる。 きっと塚ちゃんにだって、相談しているはずなのに、彼は優しいからずっと私の友達でいてくれるのだ。そして私は、そんな塚ちゃんの優しさがわからない男たちが、さらに嫌いになる。

「ね、塚ちゃん」
「何?」
「今度セックスしようよ」
「誰と?はまちと?」
「うん」 

無理だよ、と彼は言った。笑おうとはしない。息が口からこぼれるたびに、もったいないと思う。ああ、キスができたらあの息、漏らさないのに。

「女の子とできないよ。第一、起たない」
「いいよ、私がいれる。だから、しようよ」
「はまち、もう彼女と長いことやってないの?」 

そんなことはない。昨日だってお互いちちくりあった。でも、そうじゃない。私は塚ちゃんという人間と、セックスという快楽を共有したいのだ。お互いの性別を深く確認してしまう行為でしか、私たちはわかりあえないのだと思ったりする。 塚ちゃんは私の少し前を歩いていたけれど、振り返って恥ずかしそうに笑った。

「はまちのことは、友達以上で好きだけど、セックスはできないな」

うん、と頷いた。 そんな彼が、私はやっぱり大好きだ。


END

 

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