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Love Ring
私が気後れしてしまうほど高級なレストランで気後れしてしまうほど立派なコースを注文し、藤本さんは気後れするほどさわやかに「おめでとう」と言った。あたしはそっと頷く。
「プレゼントなんだけどね」とごそごそしだす藤本さん。これ以上私から自信を奪っていく気なのか。
「いいです、こんなところ連れて来てもらったのに」
「プレゼント渡すのが趣味なんだよ」
そう言って小さな箱をとりだした。どう見たってアクセサリーだ。手をのばしてうけとると藤本さんは相変わらずさわやかに笑う。箱を見て、その店が最近高校生の間で流行っている所だと知り、同時に高校生では中々手が届かない値段だともわかる。中には小さなハート型のダイヤが一つついたシルバーリングが遠慮がちにいた。
「うそ、かわいい」
「君はいつもうそ、って言う。うそじゃないだろうに」
クスクス笑ってからかう藤本さんはまるで少年のようで私はますます彼を好きになる。
「いいんですか本当に」
「その顔が見たくてあげてるんだよ。はめてみて」
そういえば藤本さんに指のサイズを教えたかななどと蛸のカルパッチョを噛みながら思う。けれどもそんな心配いらなかった。指輪はぴったりだった。
「うそ」
「また言った。一目でサイズわかるんだよ。触ればもっと正確に」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
右手の中指にはめたそれはキラキラ輝いている。少し経ってからふと聞いてみたくなって尋ねてみる。
「藤本さんは奥さんにどれ位プレゼントした?」
不意をつかれたらしく、彼はメインディッシュのフィレ肉をナイフで切りながら固まった。けれどさすがにそこは大人、態勢を立て直す。
「アレにはそんなにあげてないな」
「子供にも?」
「私よりも他に素敵なモノをくれる奴がいるさ」
藤本さんは少し悲しそうな顔をして、もしかしたら私の父親もこんな顔をするのだろうか。
私たちが出会ったのは私の誕生日だった。父親の会社の同僚の藤本さんと家でばったり出くわした。たぶん、私も藤本さんもこうなることはそのときにわかっていた気がする。
会って一年目が今日で、今日は私の誕生日。朝、家を出るときに父親と母親には友達が祝ってくれるから遅くなると嘘をついた。
「マキちゃんは里中からもらわないの」
「最近はお金。好きなもの買えよって」
「アイツらしいね」
藤本さんはニッコリわらってさくらんぼのアイスを食べていた。
店を出て近くの海岸までドライブ。セーラー服とスーツの組合せってあまりよく思われないだろうから、この時季は人気の少ない海を選んだ。
「藤本さん」
波打ち際で二人でじっとたっていたけれど、隣でタバコを吸う彼を見た。彼もこっちをむいて「ん?」と微笑む。彼は客観的に見てもかっこよくて四十代なんかに見えない。だから私は一度も父親の同僚だと思ったこともない。
彼は私の彼氏であり、浮気相手。私は彼の彼女であり、不倫相手。
「いつまでずっと好きでいられると思う、人間って」
「うーん。難しいな」
そこまで考えてないように言う。
「だけど気持ちに果てはないだろうね」
「でも別れるカップルいるよ」
「あれは果てが見えたんじゃなく途切れたんだよ」
自分でふった話だけれどちんぷんかんぷんだった。
「指輪みたいなものかな」
藤本さんは煙草を消してあたしの肩を抱き寄せた。こんな何気ない所作も私を魅了する。彼の体は温かい。
「別れる人たちは指輪になる前に途切れたちゃったんだな」
「気持ちが?」
「たぶん。さ、車に戻ろう」
肩を抱かれたまま車までとぼとぼ歩く。あたしは後ろ手に中指の指輪をそっとなでていた。私たちもいつか途切れるんだろうか。少し考えたくない。
「藤本さん」
立ち止まって彼の目をまじまじと見た。得意の上目づかい。彼はこれに弱いんだ。
「カーセックスってしたことある?」
一瞬とまった彼だけどすぐに笑い出した。
「ある、ってことにしておこうか。そうすると君はしたくならない」
「ううん、カーセックスは上手い人とやれって」
「誰が?」
「友達。じゃないと腰痛めるんだって」
車に乗り込みあたしは助手席を倒した。藤本さんは深い溜息をついたけどかすかに笑っている。
「最近の高校生はすごいな」
「高校生扱いしないで」
「ああ、ごめん、マキ」
イタズラっぽく笑った藤本さんはネクタイをゆるめてあたしにキスをする。藤本さんとのセックスは今日で二回目。彼とのそれはさらさらしてて余分がなくてだけどたまに濃厚で意地悪だからすごくいい。彼氏のタクのはすごくねばっこくて自分が気持ち良ければそれでいいようなのでいやだ。今日もあいつは会いたがっていたけれど私は藤本さんを優先した。それを思うと藤本さんを知ってしまった私はこれから彼無しでは生きていられないような気がして、だけど彼には私がいなくても生きられた今までの数十年があって、その成果がこんなセックスとサイズ当てかもしれなくて。
ああ、わかった、好きってこうやってぐるんぐるん回っていくんだ。安心て不安と信頼と欺瞞でできてる指輪なんだ。
あたしは彼の脈拍を熱く感じながら右手中指の指輪をこっそり左手薬指につけかえた。少しだけ、安心と信頼が大きくなった気がした。
終わってから、一回目より二回目の方がよくなった、なんて言ったら「まだ男だね、私も」と照れていた。
「年なのにね」とも言うと
「馬鹿にしないで」
と言ったから二人で大笑いした。
次の日学校に行ってもちっとも痛くないあたしの腰。藤本さんは上手いんだ、本当に。
「あ、マキ指輪してる。かわいいじゃん」
ヒトミが左手薬指の指輪をながめてる
「タクからもらったの?」
「ううん、違う」
指輪を右手につけかえてさわやかに笑ってみた。
「お兄さん」
to be continued
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