この小説には以下の表現が含まれています ・グロデスクな描写 大丈夫な方はお読みください。 大丈夫だから読みます       




ミライ    first edition



「絶対逃げてやるからな!クソッタレが!」

狭い通路には死体がいくつも転がっていて、踏まずに進むことなど無理だ。それに血と硝煙の匂いで吐き気さえ覚える。櫂理(かいり)は歩くたびに小さく「ごめんね」と言い続けた。
 

彼女の前を歩くマズロは速い。追い付こうとすればするほど、死体を踏み付けてしまう。それに血も飛び散って体にこびりつく。櫂理もマズロも、血まみれだった。死体の血なのか、自分の血なのかは区別がつかない。ただ生きているときには潮をきずき体の中を満たしていたこの液体は、容器が壊れるとすぐに得体のしれない恐怖となる。櫂理は頬に飛んだ血という液体をぬぐった。そして、進む。

「櫂理、早くするんだ」

たまに足を止めてはマズロは振り返り、彼女を促す。わかってはいる。けれど櫂理の足は上手く動かない。動く、と思うとすくにガクガクと震えるのだ。このルート9から出られなければ命はないだろう。わかっている、そんなこと。現に自分の足元に転がる死体はなんだ。飛び散る液体はなんだ。粘膜のようにぬめぬめとした通路の壁は今にもマズロと櫂理を飲み込むかのようにうごめいているではないか。

錯覚などではない。
違うこれは現実。
錯覚ではなくて―

「櫂理!伏せろ!」

言われが速かったか、マズロが被さってきたが速かったか。背後からの闇は瞬く間に二人を飲み込み、すぐに過ぎ去っていく。二人は暫く動かなかったが、マズロの下になっていた櫂理が起き上がろうとする。ねっとりと温かいものが体中を覆っている。顔にもこびりついていたから、目も開けられないし匂いで吐きそうだ。闇に巻き上げられた死体の血が降り注いだのか。いや、しかし温かい。死体は少なくとも48時間以上たっているはずだし、ひんやりとしたここに温度などない。

悠長に考えていた櫂理だったが、不意に上に乗ったままであるマズロの異変に気付いた。さっきから動かず、話しもしない。櫂理は血でべとつく顔を懸命に拭って目を開けた。

「マズロ、マズロぉおおぉおおぉぉあああああああ」

マズロの顔は、口より上がえぐり取られていた。闇にもっていかれたのだろう。櫂理は叫びながら、マズロの血にまみれた自分の髪の毛をかきむしった。


to be continued 

 

 

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