見たくない 「ちゃんと働いてるか?」 「なんでわざわざ来るの」 「 そういうことはわざわざ口に出さないでいいのに。嘘ばっかりつくこの口を、いつか潰してやりたい。本心ではない言葉は易々と言えるくせに、本当の気持ちを伝えるのは、彼はあまりにも下手だ。 「双子で一緒に向き合ってたらおもしろすぎるでしょ」 「じゃあ閉店まで待ってるから、早くね」 遊次はカフェのスペースに座ってメニューを広げている。 私と彼は二卵性の双子で、私がバイトをしているこのパン屋に彼はよくくる、というかほぼ毎日。目当ては私の迎えなんかじゃなくて、余ったパンでもなくて。 「おつかれ。もうレジしめちゃっていいよ。あれ遊次、来てたの」 閉店間際になって、豊さんが奥からでてきた。いつもと同じ動作でOpenの札をCloseに裏返す。気付けば遊次は立ち上がって、豊の横に並んでいた。普通に考えて、二人の歳の差は親子なのに。二人は恋人同士だ。 「豊さん、今週日曜暇じゃない?」 「お前、なんでパン屋が日曜に普通に休むと思うよ。うちは水曜定休です」 遊次はむくれる。豊さんはげらげらとだらしなく大声で笑った。今週の日曜は遊次と私の誕生日だ。私はレジの計算を済ませて更衣室に行く。静かに、気付かれないように。 別に、双子の兄がゲイだからってショックなわけじゃない。 ただ、私の好きな人が兄の恋人というのがショックなんだ、 と何度も繰り返したその言い訳めいていて、だけど事実を何度も頭の中でループさせた。 豊さん。 声には出せない名前を少しかすれた息で言ってみたけれど、なんだか気持ち悪かった。 「終わった?」 また店内に戻ると、二人とも私を待っていたようで私を見てにこりと笑った。 「日曜、遊子ちゃん誕生日だろ」 帰り道、三人で並んで駅まで歩いていると豊さんはのんびりとそう言った。二人に挟まれて窮屈だったが、私は無言で頷きながら遊次をちらりとみる。彼もこっちを見ていて明らかに不満そう。 「わかってるよ、遊次もだろ」 「ついでかよ。俺と遊子は二人でセットなのに」 「あんたとセットなんて絶対にいや」 「妹のくせに」 「この世に何分か早くでてきただけでしょ」 豊さんは今度は静かに笑う。いつものパターン、いつもの場面。そして私はいつも胸が痛くなってしょうがない。 私がいないところで、二人の話がどんなものなのか気になる。 遊次は私には何でも話していたし、私も遊次には何でも話していたけれど、いつからかきっとそうじゃないんだって気付いた。豊さんなんか、当たり前に私に話してないことの方が多くて。 いつだったか、たぶん私が豊さんに好意を抱いきはじめたころか、妙に遊次が店にくるようになって、妙に豊さんと仲良くなっていてまさかとは思っていたときだったか。 「遊次、豊さんと仲いいんだね」 「あ、うん、だって俺、豊さんとつきあってるよ」 開いた口がふさがらない、というよりもただただ、ショックだった。 何がだったろう、遊次がそれを私に話してくれていなかったことか、遊次も豊さんも、同性に恋愛の感情を抱いているということか、私のまだ始まったばかりだった恋の気持ちを奪われたことだったか。とにかく心がぐしゃりとつぶれたようになった。気がした。 駅につくと私と遊次は上り電車、豊さんは下り電車で改札を通った後に別れた。 「なぁ、遊子さあ」 電車に乗り込んだ後、私は座ってその前で遊次が吊り革につかまっていた。夜の上り電車はそんなに人がいない。 「何?」 「俺と豊さんが付き合ってるの、気持ち悪いと思わないの?一応、あの、さ」 言いよどむ。私にそれを言わせるのか。 「男同士だから?なんで、今聞くの?」 「なんと、なく」 きっと遊次は私が誰を好きなのか知っている。それでも聞けないでいるのを私は知っている。私が何を言っても遊次は豊さんと別れることなんかないし、慰めや謝罪の言葉なんか私はいらない。 「でも今日、俺と豊さんが話してるのを聞いてる遊子は、可愛かったよ」 「なにそれ」 「なんと、」 「なくなんていわないでよ」 アシンメトリーになっているその茶髪も、少しほりの深いその顔も、耳に空いたピアスだって。 軽く見えるその外見とは裏腹に、彼の心は豊さんへの想いで、重い。 双子、なんて。 こんなときばっかり遊次の考えていることがわかったって。 「双子のくせに。わかんないの?わかんないの?本当に?」 「遊子、どうしたんだよ」 気づいたらいつも降りている駅で、私の目の前には私と同じ顔がある。ドアが開いたけれど、私の足に力は入らない。言葉は出てくる。涙もでてくる。 「なんで、泣いてんの、ちょっと遊子、降りないと」 「私は」 遊次になりたい。 同じ顔でも、同じ血液型でも、同じ誕生日でも、同じ星座でも、双子でも。きっと豊さんと、秘密の話をできるのは、男である遊次だけ。そして遊次が心を許すのは、本当に何もかもを話すのは、他人である豊さんだけ。 「何?早く、降りようよ。気持ち悪いとか?」 「見たくないの」 「何を?」 「見たく、ないの」 二人の話なんか、見たくないの。 私をみじめにさせる、二人を隔ててる目に見える溝なんか、見たくないの。 諦めたのか、まだかすかにチャラチャラいわせながら遊次は私の隣に座ってため息を吐いた。そのときにやっと、チャラチャラいっているのは母親がくれた、私とおそろいのキーホルダーだとわかって、やっぱり涙がとまらなかった。 END *** 遊子はきっとおしとやかで、す、たぶん |