この小説には以下の表現が含まれています
・性的描写
・同性愛
大丈夫な方はお読みください。






大丈夫だから読みます



























































      
        




otherside



きもちわりぃ。胃が捻ったように痛い。うんざりだ。
少し湿って重たい、微妙な空気が部屋に満ちていた。誰もいない。俺はベッドに俯せになったまま、布団の中から外を伺った。やっぱ誰もいない、というかイナがいない。起き上がると、胃の部分だけベッドに置いておきたい気分。ぐにゃって鳩尾のとこだけ垂れ下がってるみたいだ。きもちわりぃ。
 

今日で、三日。イナが帰ってこない。心配なんかしてない。そんなんじゃない。大体バイトって言っても半日ぐらいだから朝か夜にはいて、そういうときは少なくとも二回はセックスした。というか毎日。この胃痛は三日もセックスしないことがないから。それが理由。馬鹿らしいけど。
ふらふら起き上がり、冷蔵庫をあけるとミネラルウォーターとなぜかビールの空き缶が入ってた。昨日で食糧を食い切ったからだろう。

もういっかな。この小さい部屋っていう世界で、俺の存在価値ってセックスしかない。自分で言っててどうしようもないけど、セックスできなくて胃が痛くなる馬鹿、俺だけだ。今も痛い。だから、今なら死ねる。こんなうんざりしてるなら、死ねるだろう。ゆっくり眠るように。床に座りこむと本当に死ねそう。ぼんやりしてきた視界は、段々原色になってきて目が回る。きもちわりぃ。

「死ぬならヤってるときにしろよ」

無駄にエコーのかかったイナの声。幻聴にあいつの声とか俺もそうとう好き者だ。馬鹿だ。
唐突にイナのことを考えた。大体、俺、あいつのこと全然知らない。「イナ」っていうのが苗字なのかただのあだ名なのかも知らないし、年もしらない。でもきっとイナも俺のこと知らないだろうから問題じゃないか。
俺たちの問題といえばやっぱセックスの相性がいいか悪いか。そんだけだ。胃が痛くても、やっぱ男だからかちんこが勃起した。もちろん俺はイナがいなくても、とにかく性欲だけは満たしたくてオナニーは何度もしてた。だけど最後までぜったい到達しない。イかない。困ったもんだ。
真っ裸のまま床に寝転んだ。死のう。いよいよショッピングピンクの虹が瞼にかかる。





ぐっと持ち上げられて体が宙に浮いた。はっとしてもがいた。乾いた笑い声が降ってきた。

「お前さ、ずっとその格好で寝てたわけ?死ねや阿保」

イナが笑っても笑ってるようには見えず、顔が歪んでるようにしか見えない。鼻に浮いたそばかすが、年齢をわからなくさせる。元々わかんないけど。俺、寝てたのか。この死にぞこない。笑える。ベッドに投げられた。固いスプリングは軋む。

「やりたい」

渇いた唇から出た言葉は自分でも意外すぎた。すごい。理性なんかもうどこにもない。冷蔵庫の中の水にも及ばない。イナは益々顔を歪めた。聞きたいこともあったけどそんなことはもうどうでもよかった。セックスが全てだ。イナと俺を繋ぐのはそれしかないしそれだけでいい。

最中、どちらかの体温で蒸されるのかむわりと血の臭いがたまに臭った。出所はわからない。




夜中に目が覚めて、でも胃はもう痛くなくて、そんな都合のいい自分の体にやっぱりうんざりしつつ冷蔵庫を開けた。いつのまに買ってきたのか食パンとか豚肉とかカップ麺まで押し込まれてる。それらを黙殺しつつ、ミネラルウォーターを引き出した。

ふいにテーブルを見ると灰皿とか空き缶の間にイナの財布が置いてあった。珍しく放置してある。あいつは絶対に財布、というか自分の持ち物―タバコ以外―を放置なんてしないのに。隣の部屋で、イナは寝てる。一度寝たら朝まで起きない。

俺はこっそり財布を開いた。

なんのことはないただの長財布で、少し、本当に少しだけ血生臭い。暗くてなぜかはわからないが多少湿ってる。中をさぐると2枚クレジットカードがでてきて、裏返して見ると名前が書いてある。

誰かのをパクったのかと思ったけど
 「伊那雄生」
と書いてあるところを見るとイナのものらしい。財布にお札は入ってない。

小銭を入れる場所が異様な形に膨れているので、ファスナーをあけて指を突っ込んだ。固くて湿ったものが入ってる。小さい。親指と人差し指で挟んで持ち上げた。暗闇の中でもはっきり見えるほど白い。

歯だった。しかもおそらく血で、ぬらぬらとした感触。空っぽの胃に水を流し込んだ。
情けないことに、血っていうのがあんまり好きじゃなくてこのぬるっとした感触とか妙に鉄分くさい、というかヘモグロビンです、みたいな感じが大嫌いだ。きもちわりぃ。指が震えている。

俺の思考は、その歯が誰のものなのかとか、血がまだ完全に乾いていないということはつまり今日抜いてきたわけでそう考えるとなんだか生暖かく感じることを、見てみぬふりをする。どうせイナに聞いたって無駄だ。というか、俺の歯を抜かれる気がした。この歯はきっと、どっかの誰かの奥歯であって、イナが抜いたのだろうということを俺は感じている。三日間いなかったことと、このぬらぬらした歯が関係あるのかどうかは知らない。考えるのは面倒だ。

結局、死にかけた俺が今日得たのは、セックス、イナというのが苗字だってこと、その二つだけだ。歯は何事もなかったようにしまった。水を、飲み干した。イナの隣にもぐりこみながら、セックスの最中に嗅いだあの血の臭いを思い出してた。


to be continued 


 

 

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