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Love Ring2
マキはベッドの上でごろごろと回りながら、携帯でメールを一生懸命打っている。よくも、そんな器用なことができるものだ。
「誰にメール?」とたずねると、「彼氏」といかにも面倒くさそうに答えてくれた。「そうか」と言うと「ヤキモチ?」と聞いてきたので「そうでもないよ」と答えた。実際、そうだったのかもしれないがそんな部分を見せるのは、やはり好ましくないと思う。
「来週、修学旅行行くの。沖縄なんだけど、藤本さん、何かほしいものある?」
「いや、いいよ。お小遣いあげようか」
「それじゃあ、本当に援助交際になっちゃうでしょ」
「はは、それもそうか」
マキは携帯を放り出して、すりよってくる。高校生にしてはあまり化粧もしていないし、香水もつけていない。さして手入れもしていないという髪の毛から漂う、シャンプーの匂いが不思議なほどに甘い。
毎回、人目をさけてビジネスホテルで会うものの、寝るわけでもない。こうしてベッドに座り、お互いくだらないことをぽつりぽつりと話すだけだ。それが、いやに心地よくて、二人の関係は続いている。
妻と、上手くいっていないわけじゃない。むしろ良好である。けれど、マキと会うとき、妻のことを完全に忘れる自分がいる。完全に忘れてしまうから、妻に引け目を感じるわけも、同様にマキにも感じない。言い換えるなら、マキという女性はそれだけの魅力がある。
初めて会ったのはいつだったか、マキの父親で自分の同僚の里中と酒を飲んでいたときだったろう。里中とは高校時分の同級生で、大学は違ったが就職先でばったりあった。不思議とうまの合う男だった。酒を飲むのはたいてい二人で、どちらかの家で飲む。だからか家族ぐるみで仲が良かった。
ただ、里中マキには中々会うことがなかったのだ。理由は多々あった気がするが、初めて会ったのはマキが高校一年のときだ。寝る寸前だったのか、パジャマ姿のマキがリビングに突然姿を現した。
「マキ、ほら、藤本だよ。お前、会うのは初めてだろう」
「こんばんは、マキちゃん」
「こんばんは」
一瞬、目を奪われた。美人とか、かわいらしいとか、そういう感情ではなくて、ただ「奪われた」。かっと全身が熱くなった。
「今日はマキの誕生日でね、さっきまで友達とバカ騒ぎしてたんだ、こいつは」
「そうかい、おめでとう。いくつだい?」
「十六です。あまりのみ過ぎないでね」
そういって彼女は部屋にあがろうとする。里中は「はやくいっちまえ」と軽口を叩いて、藤本のグラスにビールをついだが藤本は彼女の後姿をじっと見つめていた。それに気付いたのか、マキも少し首をかしげて振り向いた。目が合う。ウィンクされた気がした。
それから数日後、マキから電話があった。番号をどうやって調べたのかたずねると、里中の携帯を勝手に見たという。そして付き合ってほしいと、いわれた。藤本も、不思議なほど自然に承諾していた。
「セックスっていうのは」
初めて体を重ねた日、マキはベッドの中でため息まじりにこぼした。
「してみないとわからないっていうけど、しなくてもわかるね」
「何で?」
「だって、藤本さんのはやっぱり、よかった」
彼女に腕枕をしてやっているから、自然、藤本が見下ろす形になる。マキのまつげがかなり長いことに気付いたのもこのときだ。
「俺の顔を見てわかったっていうこと?」
「ううん、よくわかんないけど、しびれる感じ」
そう言うと、彼女は藤本の胸元にキスをした。なんだかとても、マキという女性が深く感じられた瞬間だった。
それからまだ二度しかしていない。が、それでも十分だ。そもそも自分はわかくないのだし、といいわけめいているのが自嘲をさそうのだが。
「たまに」
藤本の腕に絡んでいたマキは、不意にひざの上に乗る。つまらなさそうにメールを打っていたときは、年相応に見えた横顔もこうして正面からみると、百戦錬磨の女性に見せる。艶という字がよく似合う。彼女は藤本の首にゆったりと腕をからませる。ひどく、卑猥に見えた。
「藤本さん、『私』じゃなくて『俺』っていうでしょ。それが好き」
「そう?」
自分ではあまり気付いていなかった。
「今日、してくれる?」
「そうだね、二ヶ月ぶりかな」
「違う、二ヵ月半ぶり」
クスクス笑っていたマキだったが、とうとう最後は大声で笑った。
「サトルってば、いい加減なのかこまめなのかわかんない」
「マキも同じだよ」
「だって」
彼女は右手の中指につけた指輪をうっとりと眺め、左手の薬指につけかえた。
「サイズ、ピッタリなのに。エンゲージリング買ってくるなんて」
「それぐらいの気持ちっていうことだよ」
「奥さんに怒られなかった?」
「大丈夫、あれにも買ったから、三分の一」
「どういう意味?」
「値段が三分の一。怒ったかい?」
「全然。そういうサトルが好きだから」
ひざの上からベッドに押し倒すと、マキはゆっくりと目を閉じた。
最中、うわごとのように「今度はあたしが買ってくるね」と言っていた。
数日後、会社で里中に呼び止められた。以前は部署は違えど同じ階だったが、今は階さえも違う。おそらく部署が同じであったら、自分とマキの関係がバレていたかもしれない。いや、実際おびえてはいる。何せ、里中という男は鼻の利くところがある。
しかし里中は笑顔で小さなポチ袋を渡してきた。
「マキから、お土産だと」
「そういえば、修学旅行だったんだっけ、」とは言わず、「どこか行ったのか?」とたずねる。自然な流れだ。
「沖縄。修学旅行だよ」
「そうか、高校二年だったな」
「今度、またどっか行こう。お前んとこの翔太くんも今度受験だろ」
「そうだな、忙しくならないうちに、息抜きでも」
「じゃ」
「ありがとう」
用心のために、そのままトイレに行って袋の封をあけた。小さな珊瑚のついた指輪だった。手紙がついている。
『エンゲージリング。ちゃんとつけてね、携帯でもいいから。また、電話します』
彼女は女性であり、まだ少女でもある。
藤本はふっと笑いをもらすと、携帯電話をとりだして、早速スラップに随分安っぽいエンゲージリングを通した。
to be continued
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