夏夜


「ああ欝陶しい」

せまいベッドの中で密着していた僕にあてられた言葉かと思って、君の腰に回した腕をゆっくり離した。確かにこの暑さでクーラーもつけず、二人でくっついて寝るならこぼれて当然の言葉だ。君は僕に背を向けたまま尋ねてきた。

「なんで夜なのに蝉が鳴いてるの」
「欝陶しいってそのこと?」
「ほかに何があるの?」
「いやそりゃあさ、蝉は夜に孵化するんだからさ、鳴くさ」

また君の腰に腕を回す。しばらく君は黙っていて、だから寝たと思ったけれど突然くるりとこちらを向いた。

「あたし基本的に昆虫って嫌い。あの必死な感じとかが」

鼻に張り付いた汗を拭ってやると、君は目を閉じた。

「けどね、憧れもする。必死になんて生きたこと、ない気がするから」
「あいつらは寿命が一週間だよ。必死にもなるさ。人間百歳まで生きる時代に必死さなんて」

僕らは汗ばんだ皮膚をぴったりとくっつけた。余計に汗がじわじわと湧く。君のシャンプーの匂いが僕の鼻をくすぐる。いい匂いだ。

「あたしが蝉だったらどうする」

君はいたって真剣に聞いてくる。

「その時は一週間かけて君を探すよ。どうせ僕も蝉だろうから、必死になるさ」

君がクスクス笑うから、その息が直に胸元にかかる。熱い息。僕は少し欲情した。

「ねえ」

思い切って言ってみる。

「やらない?」
「今から?こんな暑いのに?」
「夏ってなんか、そういう気分。大体君が半分悪い」
「ひどい。…蝉の声には催淫効果があるのかも」
「わからないけど、これだけ蝉がうるさいんだ、どれだけよがっても大丈夫」

不意に頭をぺしゃりと叩かれた。僕は臆することなく君のTシャツに手をしのばせた。

「ねえ」

今度は君が少し息を荒くしながら言う。

「必死になれるもの見つけた」
「早いね、何?」
「セックス」

僕らはひとしきり笑ったあと、蝉の声を聞きながら必死にセックスをした。


END


***
暑中見舞いフリーのもの。これをフリーにするとか・・・
配布期間は終了していますが、もしお持ち帰り希望の方はきぃこまで。

 

 

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