Thank you for your love,AND endless love of lovers



「カオル。カオル。聞こえないの?」

ベッドに横たわる主人の頬は、陶器よりも滑らかで、雪よりも真っ白、青い血筋が透き通るようだ。「白雪姫」を連想させるがしかし、彼の胸は動いてはいない。静かにベッドに横たわっているだけだ。口の周りには、かなり前から付着していたのだろう少し黒くなった血痕が、こびりついていた。

死んだ。

ピュールは、およそ予期していたものの、やはり硬直した。

地球―テラはもはや人間が生きる環境には適してはいないのだ。おそらく特殊金属でできたアンドロイドである自分さえも、じわじわと蝕んでいるだろうこの空気はもともと体の弱い主人であるカオルを、食らっていった。

「カオル。僕はあと何年君なしで生きていくっていうんだい」

こぼれた言葉は、もちろん無言で横たわる主人に到底届くことはない。

「君にはまだ、いろんなことを教えてほしかったのにね」

そんなことをいいながら、ピュールは自分の頬をなでた。だがもちろん、涙などは落ちるはずもない。どれほど自分が人間と近い姿を持っていたとしても、その感情を持ちえることはないのだ。理解できても、それを自分の中で再現するこはない。

カオルの最愛の人・シンシアが消えたとき、カオルは泣き暮れ生気を失ったようにも見えた。それなのに―わかっているがアンドロイドの自分は―自分は涙を流すことも、気持ちを持つこともないのだ。あれほどカオルに愛されるシンシアを、形容しがたい気持ちで見つめていたときただの自負かもしれなかったが、一瞬は自分が人間ではないかと思ったが。

「馬鹿らしい」

そうインプットされているからか、ピュールの電子回路はキュルキュルと回転を始め、主人の死を記憶させる。ピュールは静かに横たわる屍を見つめていた。

「カオル」

名前を、呼ぶ。ただの屍だ。



ピュールはシェルターの扉を開けた。暗雲たちこめる空には、光はない。未来もないように見えた。

「僕は、行くよ」

握り締めたひとかけらのガラスを飲み込んだ。元はシンシアの首飾りであり、カオルのオブジェであり、そして偽りの証を。なんの異物感もなく、その欠片はピュールの体内に吸い込まれていった。

「ありがとう、さようなら」

卑怯だ、と思いつつも、こう思うのもきっとどこかのデータにすぎない。所詮自分はアンドロイドでしかない。他人の記憶を用いるしかないただの機械だ。けれども。しかし。

カオルを慕い、シンシアに嫉妬し、そして彼等とともに過ごした時間アンドロイドだったとしても僕は人間だった。この思考がその証ではないのか。

「あ、め」

ポツリポツリと水滴が落ち、彼の腕を焦がす。酸性雨などという生易しい言葉では、その威力を表現できないほどの雨だ。

「でも、行く」

ひとりごちると、シェルターを後にした。ピュールの体からは焦げ臭い煙があがり、もちろん彼の背後のシェルターもじわじわと焦げ始めた。テラはもう、泣くことしかできないのかもしれない。

離れ離れになった恋人たちのために。
嘘をついてしまった悲しい人間のために。
人を愛してしまったアンドロイドのために。

さよなら恋人。


END


―あとがき―

拍手で載せていた、Loversの最終回。です。たぶん(ぇ
あの終わりじゃ自分なりに納得できなくて、ピュールがかわいそうだったんで…
どんな終わりがいいのか、自分でもよくわかんないですけれどね。

このLoversは、すごい色んな人に応援されて続きました。うん。
最初は、本当に一話だけで終わる予定だったのに、私の無計画っぷりも存分に発揮されて。
シンシアなんて、名前だけで登場する予定だったんですけども。

いろんな終わりを考えました。
でもどれも納得できないんだな、とこれを書いてしみじみおもいました。

ご愛読ありがとうございました。

 

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