・この小説は長編『イナとダイヤ』本編を読んでからをお勧めします。
・非常に露骨な性的表現(同性愛)が含まれて居ます。






Feed the Brute


何かを考えていたわけじゃなく、最近外に出ていないと思って外にでたらじめじめとした空気で、俺は吐き気がする。といって、どうせ部屋にかえっても食いもんもないし、イナは何も買ってこないのだし必然的に俺がどうにかしなくてはならない。めんどくせえ。傘をとりに戻ろうかと思ったが、エレベータで最上階近くまでまたあがるのも面倒で、そのままエントランスから出た。

特に目的もなく、街中をぶらぶらと歩いた。手ぶらで軽装で、もうすぐ秋も深まるのに半そでのTシャツとジーンズでは少し寒い。とくに服装とかに興味もないのだが、いい加減上着ぐらいは出したほうがいいかもしれないとぼんやり思う。そういえば今朝、イナはスーツのジャケットを羽織っていった気がする。ぼんやり、眠気眼で見届けただけだが。

あいつと、最近あんまり話してないな、と、近くのスーパーに入りながら思った。午前中のスーパーはずいぶん空いていて、店員は誰も面倒くさそうな顔をして働いている。どこを見ても、彼らがうようよ目を動かせているようで目が合うのがなんか忌々しい。あほか、と、勝手にため息をつきながら、食べたくもないがなんとなく真っ赤なリンゴに手を伸ばした。そうしてまた、イナのことを思い出す。性格には赤毛か。俺も相当イっちゃってるらしい。頭が。こういうときさえあいつのことを思い出すとか。

最近忙しいのか、イナは朝早くに家を出て夜遅くに帰ってくる。あいつにあわせて生活してるわけじゃないから、俺は好きな時間に起きて、バイトして、飯食って、寝て、の生活を繰り返しているが、こんなにも顔をまじまじと合わせないのはめずらしい、というのか、こんなにもセックスをしない期間は、前すんでたボロいアパートであいつがまったく帰ってこなかった三日間ぶりだった。一週間、か、10日間、か、そこまでよく記録してるわけでもないが。
一度、バイト先で、バカそうな女子大生が誘ってきたことがあったけれども、そのはきそうにバカな口調と不細工な顔では勃起しそうもなかったので、丁重に断った。
あー、本当、俺、イっちゃってんな。
少し考えただけで、イナの指先なんかを思い出したりして、ちんこが少し勃ってしまった。




スーパーを出ると雨は小降りで、まあ傘もいらないだろうとぶらぶらしながら帰っていたが、そのうち本降りになってきてマンションのエントランスにつく頃にはTシャツが絞れるほどに、というか前身服を着たままプールに放り出されたみたいな格好になってしまった。まさにぬれねずみだな、と笑えた。そうしてまた、イナのアパートに初めて行き着いた日のことさえ思い出した。雨にぬれて、血のにじむシャツさえ見てもあいつは動じることなく、俺を部屋に招きいれて有無を言わさず抱いた。

部屋番号と暗証番号を入力すると、重々しい音がしてドアのロックが開く。と、向こうから黒いスーツをきた大柄の男が足早にやってくる。開けたまま待っていると、彼は驚いたように立ち止まった。よくよく見ると松居だ。

「ダイヤか…久しぶりだな」
「うるせーな」

イナにも松居がつくようになったのかと思うと、いよいよ大渕さんに近づいているらしい。
松居はしばらくそこにたって俺をじっと見ていたが、急にあはは、と笑った。初めて見る彼の笑いに、今度は俺が驚く番だった。たじろいでいる俺を気にもしないで、松居は大またで歩いてくると俺の肩をぽんぽんと叩いて(ちなみにまだ顔は笑っている)

「お前を逃がした日のことみたいだな、今度は帰ってきたのか」

と言ってでていった。


ぽたぽたと全身から流れる雫が床の色を濃くしていく。エレベータの中にも水溜りができてしまったが、そのままにしてフロアに下りる。松居が出て行ったということはたぶん、イナが帰ってきたということでもあるのだろう。Tシャツの裾をしぼりながらノブに手をかけてひねってみるとなんの抵抗もなく開いたので、やはり帰ってきているのかもしれない。 雨が降っているからか、室内は暗く物音一つしない。もしかしたら何か頼まれて松居がここにきたのかもしれず、いやでも鍵をかけ忘れるなんてことはないだろうと思ったその瞬間、後ろから口を押さえられてそのまま引きずられるようにベッドに放られた。持っていたスーパーの袋がフローリングにあたって、ぐしゃりと不穏な音が静かな部屋に響く。 とくに恐怖心もなく、それというのもまったく正体はわかっているからで、ベッドに投げられた後もじっと相手の目を見ていた。爬虫類みたいな目だ。

「んだよ、少しは泣くとか叫べとかしろや」
「お前本当にバカだろ。どけよ」

イナはつまらなそうに、けれども意外に素直にベッドからどいた。今帰ってきたばかりらしく、スーツもネクタイもそのままでキッチンに行って水を飲み始めた。タバコも吸っている。俺はそれを横目にベッドからおりて、床に散らばった袋の中身を拾い集めてテーブルに乗せる。リンゴが一つ、衝撃でヒビが入ってしまったようだった。

「リンゴとか買ってんなよ」
「お前が食べるんじゃないからいいだろ」

彼はふっと笑った。顔をゆがめて笑うのは相変わらずで、その笑みをみて少し心地よくおもっている自分に吐き気を感じたがだまったままそのヒビわれたリンゴを洗わずにほおばった。リングのまるかじりなんかいつぶりだか、久しぶりのその固い感触が少し笑えた。味はまずくもないしうまくもない。いたって普通のリンゴだ。丸々一個を食べきるのは少し困難な気がしたが、とりあえずは食べていようとイスに座る。
イナは黙ってタバコを吸っていて、俺をじっとみている。やはり灰皿を使おうとしない。

「お前、灰皿使えって何回言えばわかるんだよ、猿かよ」
「猿みたいにいっつもサカってんのはてめえだろ」
「全然関係ねえ話すんじゃねえよ」

くっくっく、と、イナは咽喉で笑って俺の向かい側に座った。ぱらぱらと灰がテーブルに落ちる。この部屋に色のついている家具がほとんどなくて、テーブルもご他聞にもれずまっ白だ。そこに落ちる灰も色があるわけじゃないが、小さな影の集まりのように見えて、目の錯覚のようにも見える。
それをじっと見つめていたらリンゴを持っていたほうの腕を引かれて、俺が持っているのを支えながらイナが大きく一口かぶりついた。果汁がぽたぽたとテーブルに垂れる。彼の口元からもそれがたれた。もう片方の手にあるタバコの灰はぱらぱら散っているのに、そのままの体勢でもう一口、二口、と彼はがぶがぶリンゴをほおばった。ぽたぽたと、最初はまだ上品に垂れていた果汁だったが、イナが一口二口とかじりつくたびに、だらだらと、まるで体液みたいにだらしなくリンゴから、彼の口から、液体が流れた。
イナの舌はたぶん常人よりも長くて、蛇のようによく動くと思う。その真っ赤な舌が口からちろりと出て、口の周りについた果汁を舐め取った。思わず口を開いたものの、声が上ずる。痛いぐらい、興奮していた。

「…きったねえな」
「は、お前、勃起してんだろ」

イナは華麗にテーブルに飛び乗って俺のアゴを掴み、唇を押し付けてきた。のっていたビニル袋が音をたててまた床に落ちた。イナが今さっきまでほおばっていたリンゴが今度は俺の口の中に流れ込んでくる。息もできず、味もわからず、まだ大きいままのリンゴの砕けた塊が口いっぱいになってただ飲み下すしかない。そうする間にも、イナの舌は容赦なく入り込んできて、口腔をかき回す。手からリンゴが滑り落ちる。

「…っつ、ふ、お前、殺す、気かよ」
「死ね、ばーか」

彼はすばやくネクタイをゆるめて上半身裸になった。ジャケットもシャツもネクタイも床に投げ出すので、ああ、どうせまた俺が片付けるはめになるのだとうんざりする。そんな気持ちを知ってか知らずかイナは不適に笑って、テーブルにすわりスラックスのジッパーをさげた。タバコはずいぶん短くなっていて、彼はそれをテーブルに押し付けて消した。言わんとしていることはわかる。

「久しぶりで、口が恋しかったろ」
「ばかか」

とはいえ、興奮しているのは否めない。俺は素直に下げられたジッパーの中からイナのちんこをとりだして、そしてしゃぶった。これ特有のにおいと、口で膨張する感じ。何も考えない。何も考えられない。ただ、それを吸うこと舐めること、それに集中した。

「もっとおくまで入るだろう」
そう言ったイナの声は若干かすれていて、息も荒く、めずらしくこいつも顕著に興奮しているのだと感じる。ずずっと音をたてて咽喉まで届きそうなほどくわえ込むと、イナの手が俺の髪の毛をくしゃくしゃと掴んだ。雨の雫が絞られた分、背中につたっていく。それでまた変な感覚がして、鳥肌が立った。それに気づいたのか、しばらくかすれた呼吸を繰り返していたイナはぶらぶらとテーブルから下がっていた足で俺の股間をぐっと押した。

「足コキってのも、わるかないな」

相変わらずかすれた声。俺は何がなんだかわからなくなりながら、ただ熱くなっていくイナのちんこをしゃぶってる。さっきのリンゴといい、これといい、なんだか餌付けされているようにも思える。彼は相変わらず足でぎゅうぎゅうと圧迫してくる。ぬれたジーンズや下着から水分がじゅくじゅくとあふれてきて、それがちんこにふれるのが気持ち悪いようで、でも、それに慣れてしまうとただの愛撫でしかないようにも思われた。ちんこさえも餌付けされてるみたいだ。

俺が呼吸を荒くしたのを確認したのか、イナは足をどけていきなり俺の胸をどんっと蹴った。口からイナのちんこが離れて、イスに座ったまま倒れ、横向きに床に打ち付けられた。鈍い痛み。フローリングの冷たさ。少しの快感。

「お前、髪伸びたな」
「あ?」

イナがテーブルから下りたことは彼の足が視界に映ったことでわかったが、すぐにどこかにいってしまった。脈絡のなさでは世界一じゃないかと思うし、なんとなく松居が彼につくことがわかった気がする、が、そんなことはどうでもいい。下半身のうずきをどうにかしたくて、寝転んだままジーンズと下着をずり下ろしてちんこをつかんだ。雨のせいで冷えた自分の指が与える快感。
しばらくして視界に現われたイナは片手にはさみを、片手にはさっき俺がどこかに放り投げてしまったリンゴをもっていてそれをほおばりながら面白そうにこっちを見ている。が、ぬれた前髪が目に入ってどこかぼんやりしている。

「切ってやるよ」
「…っはぁ?」

イナは俺の上半身を起こし、もう一度自分のちんこを銜えさせた。また口が一杯になって、よくわからないまましゃぶった。手ではじぶんのちんこ。口はイナの。わけわかんねえな、と思いながら確かに体温が上がっていくのを感じる。と、じょきじょきと後頭部の方で不吉な音がした。そしてぱさり、と何かが視界の端に落ちてきた。思わず顔をあげる。

「んっあ?」

俺の髪の毛。イナがリンゴを銜えながら、じょきじょきとはさみで俺の髪の毛を切っていた。

「長いんだからちょうどいいだろ。上手く銜えねえと取り返しつかねえぞ」

イナはぐいと俺の頭を掴み、もういちど股間に押し付ける。
下手に抵抗すると、こいつのことだからはさみで殺されかねないとも思い、場所をかえるはさみの音に若干恐怖しながらも耳にあたる金属の冷たさには反応してしまう。
ただ黙々と銜えた。じょきじょきと迷いなく髪を切る音、外の雨の音、そして粘膜と粘膜がこすれる音。頭がおかしくなるような、欲にまみれた空間で、俺は、感じている。

お互いに息が荒くなり、イナのはさみを使う音も止まった。俺の手も止まる。ただ、熱が集まる口だけに集中した。





「ほら、出せよ」

イナが手を出す。今さっき口に放たれたイナの精液を素直に吐き出す。それを手の上でこねながらイナは俺のケツに指を無遠慮につっこんだ。久しぶりの感触に体が波打つ。仰向けに横たわると、イナは右手でTシャツの上から乳首を、左手でケツをいじる。
イナの指は長い。穂積の指も長かったが、あれの比ではない。よく動くし、冷たい。乳首をつまむその指に温度はないが、それのせいで俺は感じる。イきそうになる。頭がまっ白になる。
ぬれた布一枚隔てているのがもどかしいのに、それをわかっているようにイナはそれをもてあそぶ。ケツの穴から指を引き抜いて、両手で俺の乳首をひねり、つねり、吸う。

「っと、も、お前いいかげんに、し、」
「こっちの方がいいくせに。ドMが」

Tシャツの下を指が這う。直接的な刺激は、意識を奪う。声にならずにただうめきのような息が出たり入ったりする。

「いれる」

イナはそうつぶやくと俺の足を持ち上げて、多いかぶさってくる。さっきの液体だけで十分慣らされたわけじゃないから、痛みをともなってちんこが入ってくる。きつい。無理だ。いつも、いつも、そうだ。はは、とイナは乾いた声で笑った。

「お前、しばらくしてないうちに締まりよくなったな」
「っ―、ゴムぐらい、しろ、ば、か」
「こっちのがいいだろ、いっつも」

イナがつきあげてくる。ベッドでするときと違って、シーツも何も掴むものがない。背中が床とこすれて痛い。自分の汗か体液か雨のせいか、わけがわからない液体でぬれてべたべたして、ただただ粘膜がこすれていく。

こんなに餌付けされて、どこもかしこも餌付けされて、たぶん餌付けもしてて、とにかくわけわかんなくなってリンゴが食べたくなる。
アダムとイヴの食べたあの赤い実は、たぶん知恵の実なんかじゃなくて媚薬だったんじゃないか。
そんなわけないか。

「あー、あ、あ、」
「だす」

イナはちんこを引き抜いて、俺のちんことこすり合わせながらそうしてイった。

その後風呂に入って、髪を洗い流しながらヤって、ベッドに戻ってまたヤった。









シーツの感触は、無機質な感じがしていい。ピンと引き伸ばした、しわのないシーツに飛び込むのが好きだ。
そっと目をあけると案外寝覚めはよくて、枕元の時計はまだ早朝をさしていて、だがもう一度眠るには目が冴えすぎている。隣では当たり前のようにイナが寝ていて、白いシーツにうずもれている赤髪は異様なもののようにも見えた。
一人ベッドの上に起き上がり、サイドボードにあったタバコに手を伸ばす。タバコは好きじゃない。吸いたいとも思わない。が、なんとなく一本くわえて火をつけた。どこのタバコだか外国モノらしく、見たことのないパッケージには英字で文字がえんえんとつづってあった。味はよくわからない。ただ煙たい。火がじわじわと進んできたので、灰皿を探すが見当たらない。そもそもこの家には灰皿がないんだったか。いつかイナが使っているのを見た気がするが、それはいつだったか。

「おい、灰皿つかえよ」

声がして、目を向けるとイナがにやりと笑っていた。

「お前、その髪型にあわねえな」
「お前がきったんだろが死ね」
「死ぬなら―」

イナは起き上がり、俺の指からタバコをとるとすうっと吸った。灰がぱらぱらと落ちた。見たことがあるな、と思う。

「お前のことひいひいあえがせて、つっこんだままお前殺してそしたら死ぬ」
「お前、死なねえだろ」
「っは」

ふっと覆いかぶさってきて、彼は俺の肩に軽く噛み付いた。
俺はぼんやりと、こんな髪型だったらしばらくは外に出られないな、と思っていた。


END


***

リクエストのあった「どえろどや話」でしたが、
どうも私の筆致力では「どえろ」もイナの「どや顔」も表現できなかったです…うう…
色々考えたのですが、二人は理想のカップル的な気がしてきました。
ご満足いただければうれしいです^^
色々見て勉強はしたのですが←
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