この小説には以下の表現が含まれています ・同性愛の性的描写(露骨です) 大丈夫だから読みます
Made from Sea
風邪を、引いた。
何が原因だったのか、思い当たる節がありすぎて逆にわからない。
朝から咽喉が痛くなり、昼ごろにひどい頭痛に見舞われた。この家のどこをさがしたって絶対に体温計はないから、ふらふらと外に出て薬局でそれと市販の風邪薬とスポーツドリンクを買うと、体温計を銜えながら家に帰る。やっぱり熱があった。基本的に体温は低いほうだから、かなりきつい。いつぶりの熱だったか頭も朦朧として考えることが億劫だ。夕方にはイナが帰ってきて、朦朧としている俺の顔を見ると楽しそうに笑った。
引っ越してからコンビニのバイトをやめたイナは何の仕事をしているのかはわからないが、朝方に出て行って夕方にはきちんと帰ってくる。なんとなく聞いたところによると、どうやら父親―つまり俺が殺してしまうところだった大渕さんだが―から毎月金が振り込まれるらしく、生活するにはなんの不自由もないらしい。イナは
「金なんか興味ねえけどな」
と、ここに引っ越してきた夜、俺を抱きながらそうつぶやいた。じゃあなぜ毎朝出て行って、夕方帰ってくるのか尋ねたことはない。服装も、前は好き勝手な格好をしていたが最近では白シャツに大体黒か紺のスラックスをはいていることが多い。いつもその後姿を見るときに大渕さんに見間違えるほどだ。イナは変わった。目に見えるほど。たぶん中身は変わってないのだろうが、だがたぶん、変わっている。確実に。
新しく引っ越したのはマンションで、前のアパートよりも市の中心部に近い。その分家賃も上がったはずだが、イナは躊躇も何もしなかった。そもそも、俺は目が覚めたらアパートにベッドと俺だけがいて、ほかの荷物は何もなくなっていた。きょとんとする俺を見て、荷物の運び出しを指示していたイナは言ったのだ。
「お前、ベッドごと運び出されたいか?」
丁重に断ったが。
新しいマンションには、まだ俺たちの生活臭はしない。できて九ヶ月とかいう、新しい壁紙は真っ白だ。1LDK。リビングと寝室の間のパーティションは出し入れ可能だから、今はしまってある。区切り目はとくにない。ベッドが部屋の真ん中にあって、キングサイズではあるが部屋のだだっ広さに拍車をかけているようでもある。
電気もつけず、薄暗い部屋の中で帰ってきたイナは俺をじっと見る。今日はネクタイまでしていて、それを緩める姿が本当に大渕さんだ。頭がぼんやりするから余計にそう見えて仕方がない。やはり親子なのだ。頭ではわかっていたはずの事実を、やっと認識することが出来た気がする。イナの手が額にのびてきた。彼の手は大きく、たやすく俺の額を覆う。冷たい。
「風邪?熱あんのか」
「…38.1ぐらい」
「バカでも風邪引くもんなんだな」
「うるせえ」
彼はキッチンに消え、すぐに戻ってきた。その手にはコップが握られている。イナはコップの中身を口に含むとそのまま俺に口移す。甘ったるくて少し懐かしい味の液体と、イナの舌が入り込んできて無理に口の中をかき回していく。スポーツドリンクが口端からだらだらとこぼれた。
息ができず、やっとの思いで咳き込むとイナの口が離れていく。
「殺す、気か」
「いつも死んだような顔してるくせに」
彼は手際よく上半身裸になると、ベッドに上がる。熱が出てるのにセックスなんかできるか。口に若干残っていたドリンクを飲み下すと、咽喉に引っかかるみたいにいがついた。
「無理…勃起しない」
「汗かいたら治るって言うだろ」
「…漫画の読みすぎだ」
「やってみねえとわかんねえよ。お前、絶対勃起するから」
イナの大きな手が俺のTシャツをめくり、乳首をとらえる。やめろ、と制するのを逆に制されて口を口でふさがれる。さっきのドリンクの糖分が残っていたからか、気だるい甘さと若干の苦味が口の中を支配する。舌が絡まる。鼻がつまっているから苦しい。けど、舌は解けない。イナの舌はまるで生き物のようで、ぬめったその肉の塊は俺の口を散々犯す。
「く、くるし」
「感じてんだろ」
彼の指は、俺の乳首を愛撫する。容赦なく、つねる。
痛さが快感に変わる瞬間がある。
痛みの消える、その一瞬の余韻みたいなもの。痛みを感じる、その瞬間的な期待みたいなもの。ぐりぐりとつぶされるように、突起は揉み解される。女が乳をもまれて感じるように、俺も感じている。結局、感じている。
薄っぺらなTシャツはどこかに消えた。イナは首筋に歯型をいくつか残し、肩もついでに噛み、乳首に喰らいつく。噛まれる、と思うその瞬間と、口が離れていくときにあたるかすかな舌のぬめりが俺を支配する。自然とばかみたいな声ももれる。熱い。頭ががんがんする。だけど体は丁寧に、総ての刺激に反応していく。
息がうまくできなければできないほど、俺は興奮する。イナもきっとそうだ。乳首を舐め、腹筋を舐め、へそを舐めるその動きはしだいに荒くなっていく。
「千尋」
そう言ってイナはスラックスと下着を下ろした。股間にあるちんこを、俺に向けている。ゆっくりと起き上がり、俺はそれをしゃぶる。
もう一つ変わったことと言えば、俺のことを名前で呼ぶようになった。たぶん、この世で俺を名前で呼ぶのはもうイナしかいないのだろうと思う。それがいいことなのか悪いことなのか、わかってもどうしようもないことを、だけどぼんやり考えたりする。
「千尋」
イナは自分で腰を押し付けてくる。それは俺の咽喉まで到達して、吐き気を感じながら必死で舌を這わせた。じゅぽじゅぽと、俺の口からあふれる音が耳から聞こえる。体で感じる。べたべたとした汗がどこからも噴出している。頭の中で、いろんな音がぐるぐる回ってる。
もっとだ、もっとだ、もっとだ。
俺が言ってるのか、イナが言ってるのか、それとも誰も言ってないのか、わからない。
少しずつ口の中で苦味が広がってきた。さっきのドリンクの糖分はどこかに消えてしまった。イナが俺の頭を押さえた。ちんこの先端を舐める。舌先を使って、蛇みたいにだらしなく、舐める。口から唾液があふれていく。イナがかすかに息を吐いた。先端から白濁した液体があふれ出る。きれいに口でうけとって飲み下した。うまいともまずいとも思わない。やっぱり咽喉がいがついて、俺は風邪を引いてるってことを自覚する。熱い。寒気がする。頭、痛い。
うう、と口から勝手に声がもれてそのまま後ろに倒れた。昨日洗ったばかりのシーツに埋もれる。洗剤のにおいと、汗のにおいと、少しの精液のにおい。
「飲んだら、早くよくなるんじゃねえの?」
たんぱく質の塊だからな、とイナが笑う。バカか、と返したかったが声が出なかった。咽喉が痛い。精液がつっかえているのかもしれないと思った、が、もうどうでもいい。今俺の中でいっぱいなのは、ちんこを早くイカせたいってことだけだ。もう痛いぐらいに張り詰めてる。少しでも触れられたらすぐにイく。そんな自信があった。
イナが俺の下着を取る。もうじゅくじゅくに濡れてるな、と笑う。暗いのに目が赤く見えた。ケツに指が一気に二本、突っ込まれた。急激な異物感。声にならない声、息がひぃとも、きぃとも、しぃともいえない変な音が口から漏れた。
「もっと色気ある声とか出せよ」
入れられたときと同様に、イナはすっと指を引き抜いてベッドから降りる。床に転がっていたコップを拾ってまたキッチンに戻っていく。俺の体は何も与えられず勝手にびくびく、痙攣してるみたいになる。我慢できない。ちんこを両手でぎゅっと掴んだ。呼吸困難で死にそうな奴みたいな、息の漏れ方。ひゅうひゅう、言う。感じすぎて気持ち悪い。全身が熱い。溶ける。全部、全部、とけそう。
右手でちんこをしごいて、左手の中指をケツにつっこんだ。四つんばいになる。アゴをベッドに沈め、指を出したりいれたりする。
「イく、イく、イくぁあああぃい」
一瞬時間が止まった。息も止まった。先端から精液がほとばしる。
どっと疲れた。死にそう。このまま死ねたらどれだけ楽だろう。顔をシーツにうずめた。息ができない。ひゅうひゅう、肩で息をしてみるがやっぱり酸素は足りない気がした。
ぐい、と肩をひっぱられて仰向けになる。間髪いれず、じゃばじゃばと冷たい液体を体中に浴びた。飛沫したそれが口にも入る。スポーツドリンクだ。薄目を開けると、イナが2リットルのペットボトルを俺の上でさかさまにしていた。口をあける。注ぎ口から一直線に俺の口に、ドリンクが注ぎ込まれる。咽喉に直撃する。咳き込めば咳き込むほど、ドリンクは注がれる。勢いを増す。
ペットボトルが空になり、イナはそれを床に放った。ベッドの上に雷雨があったみたいに、水浸しになってる。少し動くだけで水溜りが形を帰るのが皮膚の感触だけで十分わかった。咳き込みはおさまらない。鼻や口、目からでてくる液体が俺の体液なのか、スポーツドリンクなのか、もっと違うなにかなのかはわからない。
イナがベッドに乗る。水分を吸ったシーツから、じゅわじゅわと湧き水みたいにドリンクがあふれてくる。寒いのか、熱いのか、もう完全にわからなくなった。ただ今あるのは苦しさとべたべたした感触と、まだ犯されるのだという、期待。
「生まれたてみたいだ、お前。羊水でべったべたみたいなさ」
若干の笑いを含んだ彼の声が、耳元で言う。ぺろりと一回だけ、耳朶を舐められる。イナの口は俺の乳首、片手はちんこ、片手はケツの穴をとらえる。俺の口、そのもっと奥の咽喉、声帯、気管、肺、もっと奥からひゅうひゅう空気漏れ。
乳首に噛み付く、ちんこに爪をたてる、ケツをむりやり開かれる。全部が全部、絡み合う。
「いぃひ、、いいい、いぁああ」
「腰うかせろ」
無理だ。腕に力を入れようとしても、支えることはできない。俺の力を期待していなかったのだろう、イナはすぐに俺の腰を掴んでうかせると、自分のちんこを突っ込んだ。肉が内側にめり込む感じ、熱い棒を無理やりねじ込まれた感じ。裂ける。溶ける。壊れる。
じゅじゅ、と背中とびたびたになったシーツがこすれる。動くな、と手で制するものの意味はない。イナはゆっくり顔を近づけてきて、そのままキスをする。唇に歯があたる。
「ん。あ、も、も、あ、い、ぃ、ぃ、あ」
いろんな音が頭の中で交差する。混ざり合う。ぐちゃぐちゃになる。頭が回る、目が回る。
俺はスポーツドリンクの海で泳ぎながら、勃起して、先端からは無数の命を吐き出してる。
イナの息が小刻みになる。もう何も言わない。感覚だけが総てになる。
突き飛ばされるようにして、イナのちんこが俺の中から抜かれる。二つの勃起したちんこがこすれあう。ぐちゃぐちゃ、びちゃびちゃ、ただの交尾みたいに、儀式みたいにとにかく、力いっぱい、痛いぐらい、ただこすれる。
「う、ぁあ、あ、ああああ、ああんあ、ああ、、あ、―し、死ぬ、し、ぬ」「死ね」
がたがたと震えて、頭が真っ白になった。俺は、海でおぼれながら口は半開きで、死んでいく。
次の日と、その次の日は39度が出て、死にかけた。誰が治るって言ったんだ、とかすれる声で言うとイナはしらねえ、と笑った。
「でも、千尋、お前さ」
イナはタバコを吸いながら言う。自分のじゃないみたいに力の入らない腕で、サイドボードにあった妙に重く感じる灰皿を差し出すと、彼は片方の口角だけを上げた。
「お前、変わったよな?」
「何が」
咽喉もいがつく。うまく空気が通らない。しゃべるのも億劫だ。
イナは少し考えるように上を見つめていて、ゆっくりと俺の顔を見た。
「コンドームしなくても、怒らなくなったよなあ?」
「死ね」
「昨日、スポーツドリンクの羊水から新しく生まれたんじゃねえ?」
イナがひひひ、と笑った。
ぼんやりする俺の頭の中で、裸の俺はスポーツドリンクの海を相変わらず泳いでいた。
END
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今自分で持ってるものを総てつぎ込んだ気がします。