丸屋つめあわせ―Merry me 「よう、花婿、というか弟よ」 花嫁の控え室に案内されて、大きな扉を開けると同時にそう声をかけられた。ウェディングドレスを着た園子のとなりに、丸屋が立っている。こうして並んでいるのをしっかり見たのは初めてだが、やはり似ている。目元が。 「お前の弟になんかなりたくねえな」 「婿いじりでもしないと、腹の虫が収まらない」 「やめてよ」 園子は笑いながら、白い手袋をした手をひらひらと振る。華奢な腕は蝶のように軽やかだ。一歩一歩近づいていくと、反対に丸屋はゆっくりはなれていって部屋の外に出た。式場の関係者みたいな人らも、気を利かせてくれたらしく微笑んで出て行く。 二人きりになった。イスに座っている園子が俺を見上げる。 「うん、きれいだよ」 「珍しい。おーちゃん、そんなこと言わないのに」 「今日だけ。今日だけはあまいかな」 「最低だ」 けらけら笑う園子は、本当に愛しく思う。ふと目があって、おでこにキスをした。 彼女には、言っていない。高2の夏のことを。 聞いてくることもないし、たぶん聞けないのかもしれないと思う。別に、園子の目元と丸屋の目元が似ているからといって、彼を思い出すわけでもない。園子がうちに会社に来て、丸屋に再会して約三年、その間俺たちはいろんな紆余曲折を通り過ぎてはない、とは言わないけれどそれは俺と園子の間の話であって、丸屋と俺の関係は至って穏やかで二十代後半の、友人の付き合いだった。高校卒業から今までのことを話すことはあっても高校のあの1年の話をすることは、一度もなかった。 暗黙の、了解。 「弟よ」 もうすぐ時間です、と促されて部屋から出るとまだ丸屋がそこに立っていた。 黒に近い灰色のスーツを着ている彼は、実年齢よりも大人びて見えた。高校のときからそうだった、とぼんやり思い出す。 ただ、あわてたように泣きそうな顔していたあの夏の日は、違った。 こんな人生の節目にいるからか、今日はよくあの頃のことが頭をかすめる。 「ありがとな。園子を、頼むよ」 「言われなくても、って、ドラマでよく言うよな」 「お前は言うな」 俺も彼も朗らかに笑い、並んで歩き始める。 「丸屋、お前、園子と歩くんじゃないのか?」 「入り口で待機だよ」 「そうか」 「なあ、オケ」 久しぶりにそう呼ばれた。 「久しぶりだ、お前とこうして歩くのは」 「かもしれない」 再会して以来何度か二人で飲みに行ったこともあったが、何か違った。それはたぶん、丸屋も今同じことを考えてるからだ。 「最近、思い出すんだ高校のときのこと。俺は誰かにひかれて」 「悪かったな」 「…いや、たぶん、」 チャペルの入り口で立ち止まる。そして丸屋は俺の目を見る。きっと、園子はこんなにも感情むき出しの目をすることはない。目元が似ていたとしても、そこに宿す光の力が似ることはないのだろう。 「俺はあのときが一番、辛くて、楽しかった。ごめんな、ありがとう」 「丸屋」 ご新郎さま、と離れたところから呼ばれる。俺の肩を丸屋が押す。 「いけよ、新郎さま」 「うるせえな」 彼に背を向けて歩き出す。 あの日、丸屋を家まで送ることができなかった俺は、今やっと送ることができたのかもしれない。 END *** 園子と桶川の結婚式。こいつはどこまで残酷なんだか… 会話の中で、丸屋と桶川が食い違ってるとこがあります。どこでしょう。 |