(ちょっとホモ要素) Drop of Water 「ごめん」 君はそういって、泣いた。 男のくせに、なんていったら笑ってくれないだろうか。 そんなことを考えながら、 君が泣き崩れていく様を、俺は見ていた。 俺を好きという。 なのにその顔はまるで 自分の気持ちや、自分の性別や、自分の言葉 そしてなによりも 自分自身、君自身を否定するようにゆがんでいる。 鼻水と涙が混ざった、 なのに綺麗な透明の液体が君の襟をぬらしていく。 それは、純粋な水のように。 「ユウ、俺は」 言いかけて手を伸ばす。 あまりにも君が泣きすぎるからだ。 触れる寸前、最大の嫌悪を顔に映した君は俺の手を拒んだ。 「俺のことを好きじゃないなら、触らないでくれ」 ぽたり、と君の涙が手の甲に触れた。 純粋な水のような、綺麗な。 ___ kuchikara、 「なんで、私じゃないの」 言ったとたんに自己嫌悪。 この口をとってやりたい。 この頭をこわしてやりたい。 私は今この瞬間消えてしまいたい。 彼は困った顔をして、私の頭を静かに撫でた。 こいつは浮気をして、私を散々傷つけて、捨てようとしているのに 触れられているこの瞬間、そんなことどうでもよくなる。 私はまだ、こいつのことが大好きなんだ。 後腐れなく 都合のいい女 好きなコができたら執着せず手放す まるでルーズリーフに書いたみたいにマニュアルじみた言葉が 私の頭をループし続けている。 「ごめんな」 大して悪いと思ってないくせに。 いいそうになって我慢をすると、代わりに涙があふれた。 「ごめんな」 また、そういう。 絨毯に染みる涙とともに、自分な素直な気持ちをじっと見つめた。 ___ お と な 「久しぶりー!」 誰だっけ、とタバコを1本取り出してぷか、と吸った。 ゆらゆらゆれる煙を見ていたらどうでもよくなる。 「ちょっとユッコ、タバコ吸ってんの?」 「しかもここ禁煙だっての」 「分煙にご協力くださーい」 周りにいる酒に酔った同級生がけらけら笑う。 未だにわからないやつばっかりの中で曖昧に笑った。 遅れてきたのがまずかったのか そもそも同窓会に行かなくてもよかったのに 出席と出してしまった親をのろうべきなのか そうすると実家暮らしっていうのが駄目だったのか じゃあ私がフリーターなんかしてるのがまずいのか。 悪酔いしかしない安くてまずい酒なんか飲めるわけもなく 大体、全然同級生の名前も思い出せずにいたのだから楽しくもない。 たまにくる質問に曖昧に笑って返し、 同じ質問をすれば、しばらくもう話題は返ってこない。 誰に言うでもなく「トイレ行く」と言い残し、店を出た。 「あ、お前帰るの?」 店の前のガードレールに腰を下ろして、タバコを吸ってた男が言う。 「うん。実際、誰かわかんない人ばっかだから」 「俺も。酒もまずいし、ノリが無理だな」 「同感」 横にずれて場所を空けてくれたようだったので、隣に座った。 タバコの火ももらう。 「大人になったってことなのかね」 「何が?」 「俺たちがこうして誰かもわからん奴と酒飲めるって」 「私たちだけじゃないの。みんなノってるよ」 はは、と乾いた笑い。つられて笑った。 「働いて、気づいたら大人で、いらない知識ばっか増えて、  ガキんときのおもしろかったことはいとも簡単に忘れてく。  昔はそんなことねえって思ってたけど、大人はつらいね」 「そう、かもしれない」 昔、ガキんとき。 そんな単語を使う今、もうその単語の本当の意味を見出せない。 「じゃ、私帰る。ごめん、怒らないで」 「何?」 「名前わかんない」 彼も笑った。ちゃんとした笑顔だ。 「悪い、怒らないで」 「何?」 「俺、隣のテーブルで合コンやってる奴らの連れ」 やっぱりつられて笑ったけど、はっきりした笑顔だった。 inserted by FC2 system