Gritter Morning 「おはよう」 振り返った君の顔は、本当に「鳩が豆鉄砲くらったみたい」な顔。 きょとん、と丸く黒い瞳はこちらをとらえてはなさない。 「起きないと思ってた」 「うん、ま、朝だし起きた」 「全然寝てないでしょ」 「三十分は寝た」 「それは寝たとは言わない」 そういって、君は自分が羽織っている毛布をめくりあげて 僕のことを誘い入れてくれた。 ほわり、と君のあったかくてやわらかい匂いの中に飛び込む。 急に眠気がやってきた。 「眠そう」 「君のせい」 「違う、寝てないから」 君のやわらかい声は、どんどん僕を眠りの世界につれていこうとする。 ごしごし、と目をこすると君の手が僕の頭をなでた。 「おやすみ」 「寝たくない。朝なのに」 「あなたにとっては、睡眠時間」 その後何を言ったか、あまり覚えてない。というかまったく。 なんとなく覚えているのは、かすかに触れる君の温度が心地よく、 カーテンに好い加減にさえぎられた太陽の光が温かかったこと。 僕は、たとえ寝てなくても、幸せだ。 *** 未来 ―another edition― 「マズロ、やだ、やっぱやめようって」 「なんだよ、カイリはゴーストハウスは好きなくせに」 「鏡ばりっていうのが嫌なの」 「わけわかんねえな」 わけわかんないのはこっちだ、とカイリはむっとする。 硝子張り、鏡張りの部屋に入ってなにが楽しいのか。 鏡に映る自分を見るのはなんだか気味が悪いと彼女は思っていた。 三面鏡などもってのほか。 鏡が重なっていくるもうつしだされる自分の顔のどれかが 心の奥底の、汚い顔を映し出しているのではないかと思うと ぞっとしない話だった。 一時間ほど並ぶと、順番がめぐってきた。 一歩足を踏み入れると、全面に鏡、鏡、鏡。 うっ、と吐き気がする。 「カイリ、お前顔色悪い。本当に嫌いなのな」 「目がまわりそう。自分の顔がこんなにたくさんあるなんて」 できるだけ下を見て歩く。それでも視界にはいってきそうだ。 「ほら、カイリ見てみろよ。色が変わってく」 マズロに声をかけられて顔をあげると、 自分たちを囲む鏡のあちらこちらが七色に輝いていく。 万華鏡のようにくるくる回る景色は、キレイだったがやはり気持ちが悪い。 「嫌だ。早く出る」 「ああ、もう、つまんねえな、アトラクションだろ、所詮」 マズロも不貞腐れたようだったが、カイリは相変わらず顔をあげなかった。 しかし彼女は知らない。 その数週間後、 自分が嫌いだった鏡張りのその部屋のほうがよっぽどよかったと 思える状況に自分たちが置かれることなど。 人間の本質を見るのは、ここではないということなど。 *** 月と星 月湖と星緒。 名前で遊ばれた。 そういう感覚が出てきたのはここ最近で、 小さな頃はそれはそれは仲良しこよし。それでよかった。 変に意識し始めてしまうのは中学にはいって お互い片親を失くしてしまった時点からか。 お互いパートナーを失った私と星緒の親はいっしょに暮らすことを決めた。 もちろん、私と星緒はいっしょに暮らすことを決められた。 「俺、絶対親の関係に納得できない」 「何が?」 「いっしょに暮らして、けどなんにもないっていう感じ」 高校二年になり、星緒は風呂上りに いつものごとく私の部屋にやってきて、そう愚痴る。 「でも、なんかあっても隠すのが礼儀じゃないの?私たちに対する。 親のことなんかわかんないし、そんなの見せられても私は嫌だけど」 それに、と言葉を心の中で繋げる。 きっと私たちだって、自分たちの親と変わらないと思うけれど。 キスをしたのは高一の冬。 それ以上の関係を持ったのは先月。 だけど付き合うこともしない。 優柔不断な、今の状況に甘えている感じ。 無条件の、自然な、拘束。 星緒はわかってるのか、わかっていないのか、へへ、と笑う。 inserted by FC2 system