ridiculous boomer わき腹がずきん、とする。ふう、と小さく息をはいてみたものの それだけなのに、やっぱり少し痛かった。ああ、と息を吐いて 眉根にしわをよせて、の繰り返し。 ブレザーの生地をゆらす、冷たい風も染みる。 ふざけんな あいつはそういって、わき腹を蹴った。 そうして俺が倒れたところを、また蹴った。 まさか、わき腹を二回も蹴られるなんて、生まれてからはじめてだ。 ふざけんな あいつの、少し潤んでいたかもしれない瞳を思い出す。 (夕陽の加減で、そう見えただけかもしれないが) くしゃっとゆがんで、あと三秒俺が目をそらさなかったら きっとないていたに違いないのだが、たぶん。 三秒とたたず、俺はわき腹の痛みに負けたので、 床の目地の隙間に入り込んでいる埃を、ぼんやりを見つめてしまった。 そうしてあいつは、もう一度 ふざけんな とつぶやいて、でていったのだ。 別に、マゾヒストでもないけれども、 わき腹が、呼吸をするたびに、風がすぎていくたびに痛んで、 そうするとあいつの潤んだ瞳を思い出して、少しニヤつく。 夜、風呂場で服を脱いで見ると、わき腹が青紫色になっていた。 いや、ほんと、ふざけんなよ、あいつ。 *** ラブなしジャンキー いた、い、と思ったときにはふっとばされて アタシはおもいっきり壁にぶつかっている。 ああ、これで壁に穴でもあいてたらどうすんだろ、と思ったけど そんなんより、やっぱ痛いっていうのが先走る。 ああ、うっそ、これもう、何回目? キョースケはまだ怒ってるような、泣いているような 少なくとも笑ってはいない顔で、困ってるのはアタシなんだけど けど、それ以上に、キョースケは、本当に困ったみたい。 昨日、やっと頬の痣が目立たなくなって うるさくしつこく、どこでつけたんだって聞いてくるミナも やっと黙ってくれたとこだったのに、 こんなに目の周りがジンジンするってことは、 たぶん、ああ、青痣できちゃったなあって、ぼんやりおもって そんなんより、やっぱりどうしても、痛いんだよね。 「ごめん、トーコ、ごめん」 キョースケは、やっと悲しい顔になってちょっと泣きそうになって 壁にもたれたまんまで、ちょっと泣いてるアタシの元にやってくる。 「な、トーコ、本当、ごめんな」 言葉も、でなくて だってこんなに痛いなんて、卑怯だ。 こんなに泣きそうなんて、卑怯だ。 不可抗力で涙がでてくるなんて、卑怯だ。 キョースケがアタシを抱きしめる。 好きだと、つぶやきながら アタシがあげた、ちょっと甘いメンズの香水がする。 なんでこんな匂いをあげちゃったんだろ、って思って、 ちょっと気持ち悪くなった。 だけど、間近で吸うキョースケの紺色のカーディガンのにおいは キョースケそのものの匂いで、安心はした。 ただ、ただ、アタシは大きくそのまま深呼吸をして 鼻孔いっぱいにキョースケの匂いをかいで、 それから、まだまだ痛む顔面の感覚を消せないか思案する。 *** 空 空が、真っ青だった。 っていったら、ユタはああ?と眉間におもいきりしわを寄せて僕を見た。 そんなに険しい顔、しなくてもいいじゃないかと思うほど。 ユタはいつも、そうやって聞いてくるからもうなれたけど。 「お前、真っ青っていうのは顔色のことだ」 「でも、本当に青かったんだ」 「空は、白いもんだ」 そんなこと、ないよ、とは言わなかった。 ユタは自分が見えているようにしか、信じない。 きっと彼には空が白く見えるなら、彼の中の空は、白いのだ。 僕には青に見える。 何が僕に、空を青く見せているのかはわからないし 何がユタに、空を白く見せているのかはわからないけれど きっと、そうなんだろう。 僕とユタは、いつも「こっち」と「あっち」を隔てる壁に座って 空をぼんやり眺めて過ごす。 話をするときもあれば、しないでいるときもある。 僕はじっと空を見る。 今日の空も、やっぱり青いけれど、いつもよりはかすんでいる。 「あっち」では、カイハツというのが進んでいるらしくて 空気がオセン、とかいうものの被害をうけてるんだって聞いた。 だから、「あっち」の空はかすんでいるんだって、誰が言っていたかな。 僕の家は「こっち」の端っこにいるから、空が本当に真っ青なんだけど。 ユタの家は「あっち」にあって、だからきっと、白いというのかな。 たぶん「あっち」と「こっち」の境目であるここは 空は透明なのかもしれない、と思ったけれど、やっぱりユタには言わない。 「ユタ」 「なんだよ」 「今度、僕んちにおいでよ」 「なんで」 「空を、見よう」 「ここでも、いつも見てる」 「もっと、見ようよ」 あの、真っ青な空を見て、君がなんというか聞いてみたいんだ。