ましこさん 「ましこさん」 ボクがそうやって声をかけるとましこさんは いつも眠そうに細くなっている目をますます細めて顔をあげた。 ましこさんの髪の毛はすごく長くて 腰の当たりまであるんだけれど、前髪もそれぐらい長くて だからましこさんが顔を伏せて、机に突っ伏していると 上半身はほとんど髪の毛に包まれていて(埋まっていて?) 机の前の方も、もちろん髪の毛に包まれている。 顔をあげると、まるで計られたように前髪のが左右にわかれて おでこが現れて眉毛があらわれて、そして細い目。 綺麗にふくらんでオレンジ色の頬と鼻筋の通った鼻と 形が綺麗な唇が覗く。そう、ましこさんは美人なのだ。 「あ、ゆぐす?」 ねぼけているのか、ましこさんが「ゆぐす」という男と 浮気をしているのかボクが知らないけれど、怒る気はないし いつもねぼけてばかりのましこさんにイライラもしない。 「ましこさん、ボクゆぐすじゃないよ」 「わかってる」 次の瞬間にははっきりと答えるましこさん。目は依然細い。 「今日もほとんど寝てたんでしょ」 「だって眠い。春だもん」 「もう初夏だよ」 「…だって初夏だもん」 「わかってるよ」 ましこさんはぐでん、とまた机に突っ伏した。 今度は横向き―ボクがましこさんの席の横に座ったのでこっちを見たまま。 ましこさんのきれいな長い髪の毛が、彼女の後ろにある窓から差し込む 夕陽を浴びて茶色にも、オレンジ色にも、赤色にも、黄金色にも見える。 「ましこさん」 「なあに」 「美人だね」 「わかってる」 「眠いんだね」 「うん」 「ましこさん」 「好き」 「私も」 「ましこさん」 「なあに」 「好き」 「うん」 ボクも突っ伏してみる。もちろん横を向いたまま。 ふふ、とましこさんが笑うので、僕もえへへ、と笑った。 ましこさんは今日も眠そうで、そして美人だ。