2008 April〜June 6/24 思い出 例えばこうして貴方と向き合って 貴方を見つめて 愛していたのに 好きだったのに いつかこの身が滅びてしまうだなんて 私は悲しくて、悲しくて。 泣くしかできない私を許して。 6/18 ヘルプ 地響きにもにた、低い音が私の内のコアな部分をゆるがす。 やっと始まったんだ。 世界を変える、その仕事が。 壁ひとつ隔てた、生きた街は今日死ぬ。 私たちはそれを助ける役目を負った使徒。 「いくぞ」 「うん」 先を歩くイェンの肩は震えている。 彼はあの街で生まれ、あの街で育ったというのだから当然か。 「泣いてるの?」 「ああ」 「悲しいから?」 「いや」 どこからともなく、いつか人気だった歌が聞こえてくる。 イェンはその歌を口ずさみ、ヘルプ、とつぶやいた。 6/11 夢見現 ふっと息を吐いたら予想以上に苦しくて ひっと息を吸っても予想以上に苦ししかった。 結局、息をするなということで つまりは 私に死ねと言うことなのか。 泣いても 泣いても 楽にならない。 苦しい。 深呼吸をしたら、目が覚めた。 さっきまでの息苦しさが嘘みたいに、楽。笑える。 苦しいのは、生きているから、って言うけど。 私は。 夢見ていまを生きていたい。 6/4 世界の終わる日 干からびた大地には、生命のさえずりなど聞こえるわけがない。 地上にただ残された一本の大木は、季節に合わせて葉を繁らせてはいるが それがなんの季節なのか、生き残っている人間たちはわからない。 そもそもこの地上に季節などあったのかも、もはや言い伝えの枠を出ない。 人々は一日中、葉が揺れるのだけを眺めて過ごす。 一人、二人としにゆく仲間を見送りながら、過ごす。 5/28 風の日 「風、強いね」 イズミは呟いたけど、私は何も言わなかった。何を言っていいのかもわからなかった。 さすがに私の沈黙を気まずく思ったのだろう、イズミは苦笑をこちらに向けた。 「ごめんな、別に困らせるつもりじゃなかったんだ」 「…私も悪いから、イズミだけが悪いわけじゃない」 白いシーツを引いて、昨日のすべてを隠そうとしたって この匂いも、体に残るけだるさも、如実にすべてを語っている。 私たちのすべて。 5/21 あの頃 葉桜、なんて名ばかりの、葉が生い茂ったその木々は いつかの命を思い出させる。 あの人は今 どこにいるの 風は何も答えないし、聞こうともしない。悲しい、音。 私は生きていて、あの人も生きていた。 5/18 その一点 見てるよ。 5/11 あの日記 14日 貴方が死にました 15日 悲しいです 淋しいです 会いたいです 16日 会いたい 会いたい 会いたい 17日 愛していました 18日 愛していました 5/8 Orange home 夕日が差し込む教室は、オレンジ色に染まっている。 君は俺に背をむけたままで、ほろほろ泣いていた。いつも泣いていた。 「なぁ、笑ってよ」 まるでそれでさえも許せないという顔で君は。 まぶし幻。 君に、あいたいよ。 5/6 愛してる わかんないよ。 僕の口からでた言葉は驚くほどにシンプルかつクリア。 君はしばらく固まったようにしていたけど、自虐的に笑った。 まるで君自身の性別や、君自身の性格や、それ以前に君自身を憎むみたいに。 「わるかったな」 「いや」 「別に他意はないんだ」 「あったらこまるな」 「だよな」 ほら、やっぱりそうやって笑うんだね。 君のことは好きだけど 君と同じようには愛せない。 君のことは愛してるけど 君と同じ好きではない。 微妙な秤に乗せたら、結論はすぐにでるのかな。 5/4 まちへ 揺れに身を任せていると、不意にここちよい眠気がやってくる。 景色はいつのまにか緑があふれていて、都会の喧騒など知らない。 そんな嘘がつけるほど、だ。 駅につくまでは目をつむっていよう。 あなたが僕を待っている。 そんな期待をはずさないように、目をつむっていよう。 5/1 つよいひと 彼女は柵の上にたって、長い髪の毛を腕に絡ませて、飛び立つ恰好をしてみせた。 僕は彼女が本当に飛んでしまうのかもしれない、とあわてて走り寄った。 狂ったような笑い声が響く。 「あたしはねえ、つよくなんかないのよ!」 笑い声の間で彼女は叫んだ。 4/19 ヒコウ 声が漏れて涙が落ちて、目が覚めた。 夢だというのに妙に生々しい感覚が私の掌にまだ残っていた。 なぜ。 なぜ止められなかったのか。 答えのない自問は、いつまでも続くのがわかっているからしばらくして私はまた目を閉じた。 彼は死んだ。 私の目の前でビルを飛び降りた。 綺麗に、鳥みたいに、落ちた。 飛びたかったの? そう聞いてしまうほど、優雅に。 4/13 (no subject) 息を吸って、はいた。 生暖かい空気が手の平にかかるたびに、首筋に鳥肌が立つ。 静かにしようと思えば思うほど、声が出そうになる。 なんてことだろう、僕は彼が好きだということに今気付いた。 切りすぎた爪のように不格好な僕の心がざわつきはじめた。 4/10 形にならないアイラブユー 体を売る、ということに対してそこまで抵抗はなかった。 むしろ、家から出たくて金が稼ぎたくて。 登録制のそういう店に入って、店長と寝る代わりに住ませてもらって、 朝と夜、わけのわかんない生活続けてたのが四年前。最初は普通のゲイ相手だったのに、 段々、政財界のオヤジの相手をするようになったのが三年前。 そして、ベンチャービジネスで成金になった”コモリさん”に買い取られたのが二年前。 俺にしてみたら天文学的数字だったが、彼にははした金だったみたいだ。 俺には高層マンションの一室と、監視役みたいな黒服が二人つけられた。 店にいたときとあまり変わらない生活で、俺は相変わらず昼に起きたり朝寝たりして、 ただコモリさんが来ればちんこをくわえてセックスした。それぐらいしかやることなかったし、 それ目的で買われたんだから当然だろう。 コモリさんは、40代後半とは聞いていたものの、10歳は若く見えた。 透き通った二重の瞳はいつも優しく微笑んでいて、俺の髪に触れる指は柔らかかった。 なんだかんだ言っても、俺はコモリさんが好きだった。 その日、いつも深夜近くに部屋へやってくるコモリさんは珍しく夕方にやってきた。 大層疲れているようで、有無を言わさず俺を抱いた。必ずつけてくれるコンドームをその日はつけなかった 4/2 さよならなんて言いたくないのに 随分静かな、夏の昼下がり。 蝉の声さえ響きはしなかった。いや、私の耳に聞こえはしなかったのだろう。 縁側からすぐに和室に入ると、ベッドには彼女が横たわっていた。 生きているのかも死んでいるのかも、正直わからない。 私が近づくとかろうじて、弱々しく腕を上げた。細い。 「先生」 問い掛けたのか歎いたのか、自分でもよくわからない声音だったのに、彼女は笑った。 呼吸機のチューブが邪魔で上手く話せないのだろう、渇いた唇が微かに動いただけだ。 なぜ、と始めたらキリがない。 それを始めたらこの世界を憎むしかなくなる。 少なくとも今日か明日か知れぬ命を生きる彼女の前で 今日は確実に生きることのできる私がそれを言うことさえ憎い。 「え?なんですか?」 息の漏れる音が続き、彼女の口元で耳を澄ませる。 思わず涙がこぼれた。 「そんなの私だって一緒ですよ…さよならなんて…したくないです」 *** ホムンクルス 音もなく鋭い刃はぼくの腕に、皮膚に、減り込んだ。 暫くすると思い出したかのように血が溢れ出した。真っ赤な、トマトジュースみたいな。 痛くはない。かゆくもない。 ただ、何も感じないのが恐ろしい。 これから死にゆく自分に、何も感じない自分が恐ろしくてたまらない。 赤い血はみるまに床を染め上げた。目もかすむ。 ぼくはいつか消え去り、その存在さえも忘れ去られたそのときにぼくというその個体は 今このときに死にゆく個体は どこへゆく。 なあ、ぼくの血よ、ぼくの一部よ、お前たちがそこにつくる血溜まりはぼくの証明。 お前たちがそこにありつづけるからこそぼくは生きたのだ。 なあ、ぼくのホムンクルス。 いとし、この身を。